高血圧について

高血圧とは

私たちの血圧は、ちょっとしたこと(からだを動かす、寒さを感じるなど)で上昇します。こうした一時的な血圧上昇は、高血圧とはいいません。
高血圧とは、安静状態での血圧が慢性的に正常値よりも高い状態をいいます。高血圧になると血管に常に負担がかかるため、血管の内壁が傷ついたり、柔軟性がなくなって固くなったりして、動脈硬化を起こしやすくなります。

高血圧を放置していると

高血圧の状態を放置していると、動脈硬化を促進し、脳卒中や心疾患、あるいは慢性腎臓病などの重大な病気につながります。
とりわけ最近の研究から、脳卒中は男女を問わず高血圧の影響が大きいことが明確になっています。

脳卒中

脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など

高血圧によって最もリスクが高くなるのが、脳卒中です。収縮期血圧(最高血圧)が10mmHg上昇すると、脳卒中のリスクが男性で約20%、女性で約15%高くなります。
脳卒中は命が助かっても、運動障害や言語障害が残りやすく、長期のリハビリが必要となることも少なくありません。

心疾患

心筋梗塞、狭心症など

高血圧は、心疾患のリスクも高めます。特に、男性の場合は影響が大きく、収縮期血圧が10mmHg高くなると、心筋梗塞や狭心症の危険度が約15%も増加します。

慢性腎臓病

血圧が高いと腎臓にも大きな負担がかかり、血液中の過剰な塩分などの排泄がうまくいかず、さらに血圧が上昇する悪循環を起こしやすくなります。慢性腎臓病を起こすと、脳卒中や心筋梗塞による死亡率も高くなることがわかっています。

高血圧は自分で見つけられる

高血圧は、放置していると怖い病気ですが、その一方で自分で見つけられる病気ともいえます。痛みなどの症状がなくても、健康診断や家庭での血圧測定によって、発見できるからです。
「血圧が高め」とわかったら早めに受診し、治療を必要とする高血圧なのか、原因は何かなどについて知ることが大切です。

ワンポイントアドバイス

一般に血圧は、高齢になるほど高くなる傾向があります。しかし、日本では、30歳代、40歳代の比較的若い世代でも、すでに2〜3割の人が高血圧の状態です。しかもこの世代の場合、80〜90%もの人が治療を受けていません。高血圧を長期間放置していると、それだけ血管の傷みも進み、いきなり脳卒中や心筋梗塞を起こしかねません。若い世代は、食生活の改善など生活習慣を見直すことで血圧を下げやすいので、早めに受診して医師の指導を受けるようにしましょう。

(注)「高血圧の基礎知識」に使用したデータは、「高血圧治療ガイドライン2019」、「NIPPON DATA 80」、「NIPPON DATA 90」「NIPPON DATA 2010」、「健康日本21」、厚生労働省研究班コホート研究などから引用しました。

高血圧の診断基準
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」が新しくなりました。
自分の血圧がどのレベルかを知っておきましょう。

赤字部分が一般的にいう高血圧 (日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」より)

高血圧にも段階がある

ガイドラインでは、高血圧をT度・U度・V度の3段階に分け、疾病リスクとの兼ね合いで、いつどのように治療するかを医師が判断するようになっています。
正常高値血圧というのは、「高血圧の一歩手前で、注意が必要なレベル」という意味で、高血圧予備軍の段階です。疾病リスクが高い場合は治療の対象となります。また、(孤立性)収縮期高血圧とは、収縮期血圧だけが特に高いもので、動脈硬化の進んだ高齢者に多くみられます。

血圧は低めがいい

自分の血圧が正常値の範囲だと、つい安心しがちです。しかし、実際には、正常高値や高値血圧のレベルでも、脳卒中や心筋梗塞などを起こさないわけではありません。
病気の発症率との関係をみても、例えば脳卒中の発症率がもっとも低いのは、ガイドラインでいうと正常血圧(収縮期血圧<120かつ拡張期血圧<80)のレベルです(降圧薬を服用していない場合)。
そのため最近は、「血圧は収縮期血圧<120、拡張期血圧<80までコントロールするほうがいい」とされています。

血圧を下げる目標値は?

「高血圧治療ガイドライン」では、これまでのさまざまな研究結果をもとに、脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管病を予防するための「降圧目標(血圧が高い人の血圧をどこまで下げるべきか)」が示されています。

(注)この降圧目標値は目安であり、個々の状態や併存疾患などによって医師が判断して最終的に決定します。

降圧目標

病院で測定した血圧
(mmHg)
家庭で測定した血圧
(mmHg)
75歳未満の成人※1
脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
冠動脈疾患患者
慢性腎臓病患者(蛋白尿陽性)※2
糖尿病患者
抗血栓薬服用中
< 130/80 < 125/75
75歳以上の高齢者※3
脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)
慢性腎臓病患者(蛋白尿陰性)※2
< 140/90 < 135/85
  • ※1高血圧未治療で病院での血圧が130-139/80-89mmHgの場合、低・中等リスク患者では生活習慣の修正を開始または強化し、高リスク患者ではおおむね1カ月以上の生活習慣修正で降圧しなければ、降圧薬治療を含めて、最終的に130/80mmHg未満を目指す。すでに降圧薬治療中で130-139/80-89mmHgの場合、低・中等リスク患者では生活習慣の修正を強化し、高リスク患者では降圧薬治療の強化を含めて、最終的に130/80mmHg未満を目指す。
  • ※2随時尿で0.15g/gCr以上を蛋白尿陽性とする。
  • ※3併存疾患などによって一般に降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、75歳以上でも忍容性があれば個別に判断して130/80mmHgを目指す。

(日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」より)

高血圧・基礎の基礎

収縮期血圧と拡張期血圧……心臓はポンプのように収縮と拡張を繰り返し、血液を体内へ送っています。心臓が収縮すると大量の血液が送り出され、血管に大きな圧力がかかります。これが収縮期血圧で、最高血圧ともいわれます。
反対に心臓が拡張すると、心臓からの血液が止まり、血液が末梢に流れ出ていくため、血管にかかる圧力も低下します。これが拡張期血圧で、最低血圧ともいわれます。

ワンポイントアドバイス

近年のさまざまな調査・研究から、血圧が高くなるほど脳卒中のリスクも高まることが明確になってきています。
血圧が低めの人(収縮期血圧<120、拡張期血圧<80)のリスクを1とすると、高値血圧の人(130?139、80?89)で約1.7倍、I度の高血圧の人(140?159、90?99)で約3.3倍、III度の高血圧の人(≧180、≧110)は約8.5倍と、血圧水準が高くなるにつれてリスクも急上昇します。

家庭血圧にも基準がある

家庭で血圧を測定する方が多くなっています。家庭で測定する場合の高血圧の基準は、病院での基準とは違うことを知っていますか。
家庭血圧の役割

家庭での血圧測定には、次のようなメリットと役割があります。

  • 時間を決めて毎日同じ条件で、また安定した状態で測定できるので、より正確で詳細な血圧情報を把握することができます。
  • 測定値を記録しておくことで、患者さん自身の健康管理の目安となり、また、医師にとっては重要な診断材料となります。
  • 病院では把握しにくい白衣高血圧や仮面高血圧を診断する貴重な情報となります。
  • 服薬治療中には、薬の持続時間や効果を評価する資料となり、医師の治療方針の助けとなります。
家庭血圧の測定方法

あなたは、どのような方法で血圧測定をしていますか。日本高血圧学会のガイドラインでは、次のような方法が推奨されています。

1. 測定する位置

上腕部(上腕カフ血圧計による)。
心臓の高さに近い上腕部での測定値が、最も安定しています。

2. 測定時の条件

朝:起床後1時間以内、排尿後、朝の服薬前、座った姿勢で1〜2分間安静にした後

晩:就床前(飲酒や入浴の後)、座った姿勢で1〜2分間安静にした後

歩いたり、飲食したりすると血圧は上昇します。血圧測定時には椅子などに腰掛け、体の力を抜いて1〜2分間安静にしてから測定します。
医師の指示によっては、夕食前などの測定もあります。また、自分で血圧が上がったかなと感じたとき、測定値と原因(推定)を記録しておくのも役立ちます。

3. 測定回数

朝晩各1回以上。
医師の指示によっては複数回測定し、平均値を記録することもあります。

4. その他

血圧測定はできるだけ長期間にわたり継続しておこない、毎日の測定値はすべて記録しておきます。

ワンポイントアドバイス

高血圧の基準にはもう1つ、「24時間自由行動下血圧測定」によるものがあります。これは医師の指導によっておこなわれ、自動血圧計を身につけ、睡眠時や仕事中をふくめ24時間の血圧変動を詳細に記録する方法です。この場合の基準は、次のようになっています。

とくに注意したい高血圧のタイプ

危険な高血圧のタイプとは

高血圧には、いろいろなタイプがあります。中でも脳卒中などのリスクが高いとされるのが、仮面高血圧です。

仮面高血圧とは

病院での血圧測定では正常値なのに、家庭などで測定すると高い数値になるタイプの高血圧があります。高血圧であることがわかりにくいため、「仮面高血圧」と呼ばれます。仮面高血圧は血圧が上昇している時間帯によって、「早朝高血圧」、「夜間高血圧」、「昼間高血圧」に分けられます。
理由はいろいろありますが、病院では通常、日中に血圧を測定します。そのため夜間や早朝に血圧が上がる場合などには、病院での測定結果だけでは把握しきれない場合があるからです。
仮面高血圧を見つけるには、家庭で血圧を測定することが役立ちます。もし高血圧のレベルだった場合には、測定値などを記録し、受診して医師に伝えましょう。

仮面高血圧の主な原因

仮面高血圧には、次のようなさまざまな原因が推定されています。加齢にともない動脈硬化が起きている、心臓や腎臓などに障害がある、タバコの量が多い(病院ではタバコが喫えない)、日ごろ強いストレスがある(病院では医師に診てもらう安心感がある)、降圧薬の効き目が早朝には薄れている(次の早朝高血圧を参照ください)、また糖尿病が悪化しているケースもあります。

注意したい早朝高血圧

私たちの血圧は、睡眠中の深夜に最も低くなり、早朝からは活動の準備のために少しずつ上昇しはじめます。
ところが早朝の血圧が、危険なレベルにまで上昇するタイプの高血圧があります。これが「早朝高血圧」で、大別すると2つのタイプがあります。

モーニングサージ

睡眠中の深夜には血圧が低くなるものの、早朝に急激に血圧が上昇するタイプ。高齢者や血糖値・コレステロール値が高い人に多くみられます。また、軽度の脳梗塞を起こしていることもあり、脳卒中を起こすリスクが高いので注意が必要です。

持続性高血圧

深夜にも血圧があまり下がらず、早朝になるとそのまま持続して高くなるタイプ。血糖値が高い人、腎臓障害がある人のほか、大いびきをかく人(睡眠時無呼吸症候群)などに多くみられます。睡眠中にも心臓や血管に負担がかかるため、心疾患を起こすリスクが高いので危険です。

服薬治療を受けている患者さんにも、早朝高血圧がみられることが少なくありません。原因は夕食後に服用した降圧薬の効果が、深夜や早朝には切れてしまうためです。この場合には薬の種類や服用時間などを変更する必要があるので、医師に相談してください。 早朝高血圧をみつけるには、家庭での朝の血圧測定が大切です。朝の血圧が高い場合には、早朝高血圧を疑って、早めに医師に相談しましょう。
夜間高血圧と昼間高血圧で気をつけたい点

血圧は通常、昼間より夜間のほうが低くなります。しかし、昼間の血圧より夜間の血圧が高い場合があり、これを夜間高血圧といいます。夜間高血圧は心血管疾患のリスクが高くなるため注意が必要ですが、夜間の血圧は計測しにくいため、見逃されがちです。24時間血圧計や夜間血圧を計測できる機器を使用するなど、対応を考えましょう。
夜間の血圧が下がらないまま朝まで続く場合は、早朝高血圧との区別がつきにくい場合があります。しかしどちらにしても、血圧が正常でないことに間違いはありませんので、測定値を記録するなどして、専門医を受診することをお勧めします。
また、病院での血圧が正常でも、職場や家庭のストレスにさらされたりして昼間の血圧が高い場合を昼間高血圧(ストレス下高血圧)といいます。中でも精神的・身体的ストレスの影響をうける職場で血圧が上がる場合があり、これを「職場高血圧」と呼んでいます。職場高血圧は肥満の人や、家族に高血圧の人がいる場合に多いというのが特徴です。

ワンポイントアドバイス

病院で血圧を測定すると、なぜか高めになる…そんな経験はありませんか。病院だと、緊張などから血圧が高くなることがあり、医師や看護師のシンボルである白衣から「白衣高血圧」と呼ばれています。
高齢者に多くみられますが、白衣高血圧の傾向が強いと、日ごろの血圧がわからないため、医師が正確な診断を下しにくくなります。こうした場合も、家庭で血圧を測定し、その記録を医師にみせることで、白衣高血圧かどうかの判断ができます。

高血圧とメタボリックシンドローム

高血圧は危険な因子

メタボリックシンドロームは、腹部肥満をベースにして、高血圧や高血糖、脂質代謝異常などの危険因子がいくつか重なった状態のことです。
メタボリックシンドロームになると、冠動脈などの動脈硬化を促進し、心筋梗塞などの心疾患を引き起こしやすくなります。
日本人の場合、メタボリックシンドロームを構成する危険因子のうち、最も多くみられるが高血圧です。高血圧は、単独でも心疾患のリスクを高める要因なので、両方が重なっている場合には非常に注意が必要だといえます。

正常高値でも注意が必要

血圧が高い方は、メタボリックシンドロームだけでなく、慢性腎臓病、心血管病などの臓器障害を併発しているケースが少なくありません。また、喫煙の習慣、高齢、遺伝などの要因をもっていることもあります。
こうした合併症や悪い生活習慣などの危険因子がある場合には、高血圧の前段階(高値血圧)でも、脳卒中や心疾患のリスクが高いと判断されます(下表参照)。

この表は1つの目安であり、実際の診療では医師が検査や問診に基づき、治療方針を決定します。

また、ほかにも高血圧のリスクを高める要因や、高血圧に関連する疾患は数多くあります。

糖尿病

糖尿病患者のうち高血圧の人の割合は、糖尿病でない人の約2倍と高くなっています。糖尿病で血糖値が高くなると、動脈硬化が進み、血圧が上がってしまうのです。また、高血圧の人は糖尿病になりやすいので注意が必要です。

動脈硬化

高血圧の場合、心臓から送り出される血液の量が増えることで動脈に高い圧力がかかり続け、血管壁がぶ厚くなったり血管の内腔が狭くなったり硬くなったりします。この状態を動脈硬化といいます。また、動脈硬化が起こっていると血流が悪くなるため、心臓はより強い力で血液を送り出そうとするので血圧が上がってしまいます。このように、動脈硬化と高血圧は、表と裏の関係といえるものです。また、脂質異常症と高血圧が合併している場合、動脈硬化のリスクが増大してしまいます。

腎疾患

腎臓には老はい物や余分な塩分を排泄するための毛細血管が多数あります。この腎臓に動脈硬化が起こると老はい物や塩分の排泄が悪くなり、心臓はもっと腎臓に血液を贈ろうとして血圧が上がってしまいます。すると動脈硬化がさらに進行し、やがて、腎臓の機能が低下してしまい、最悪の場合は腎不全になるリスクも増えてしまいます。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠中に呼吸が何度も停止してしまうと交感神経が優位になってしまうため、普通は夜間に下がるはずの血圧が上がってしまいます。睡眠時無呼吸症候群は、心不全や脳卒中、脳血管疾患のリスクとなるため、適切な治療をすることが重要です。また、夜間高血圧や早朝高血圧の原因の1つといわれています。

これら以外にも高血圧は、高尿酸血症、慢性閉塞性肺疾患などとの関連も指摘されているため、注意が必要です。

日本人に多くみられる高血圧のタイプ

こんなタイプは注意を

日本人の高血圧には、原因や要因にいくつかの特徴があります。思い当たるものはありませんか。

食塩摂取量が多い
日本人の高血圧の最大の原因とされるのが、食塩摂取量の多さです。減塩ブームといわれますが、現実には1日の食塩摂取量は約10gにもなります(国民健康・栄養調査2019年)。日本高血圧学会が推奨する食塩摂取量は「1日6g未満」ですから、まだ大きな開きがあります。
食塩を多くとると、なぜ血圧が上がるのでしょうか。
食塩をとると、血液中の塩分濃度が高くなります。すると濃度を調整するために、体内の水分が血液中に集まります。その結果、血液の量が増え、血圧が上昇するのです。さらに、血液中の塩分を早く排泄するため、心臓は腎臓により多くの血液を送り込むため、血圧が上がります。

内臓脂肪型肥満

日本人の男性(比較的若い世代)に多くみられるのが、内臓脂肪型肥満を原因の1つとする高血圧です。
インスリンは糖をエネルギーに変える重要なホルモンです。内臓脂肪が増えると、インスリンの働きが悪くなります。するとすい臓から大量のインスリンが分泌されるようになりますが、インスリンには腎臓からの塩分(ナトリウム)の排泄を妨げる作用があります。その結果、血液中の塩分濃度が上昇し、高血圧をまねきます。
また、インスリン自体が動脈硬化を促進することも明らかになっています。

高血圧になりやすい体質

日本人の高血圧の患者さんのうち、約半数は親などから高血圧になりやすい体質を受け継いでいるといわれます。両親ともに高血圧の人は、特に、要注意です。
高血圧になりやすい体質には、塩分感受性(塩分の影響を受けやすい)や、カルシウムの調節機能がよくないなど、さまざまなものがあります。
両親、祖父母、兄弟姉妹をみて、高血圧の人がいる場合には、自分もリスクが高いと考え、血圧に気をつけるようにしましょう。
また体質だけでなく、家族は生活習慣(食事の傾向、飲酒・喫煙習慣など)も似ています。家族に高血圧の人がいる場合には、生活習慣を見直してみることも大切です。
ワンポイントアドバイス

ストレスを受けると、血圧が一時的に上昇します。これはストレスに対抗するための防御反応の1つで、いい意味での「緊張状態」が生まれます。
しかし、ストレスが長期間にわたって続くと、ストレスに弱いタイプの人は慢性的な高血圧状態になりやすい傾向がみられます。日本人には、相手に合わせる「過剰適応型」のストレスをもつ人が多く、このタイプは自分がストレスを受けていることに気づきにくい面があります。家庭での血圧が高めになっている場合には、ストレスも疑ってみて、積極的に気分転換(新しい趣味をもつ、旅行をする、映画や演劇を鑑賞するなど)を図ってみるのも1つの方法です。

食生活を見直す

高血圧の人は自分でも気づかずに、血圧を上げるような食生活をしていることが少なくありません。「血圧が高め」といわれたら、まず食事の内容や仕方を見直すことが大切です。
減塩を心がける

食生活の中でも、まず見直したいのが塩分の摂取量です。減塩による降圧効果には個人差がありますが、世界的にみても日本人は塩分をとりすぎている傾向があるので、まず減塩を心がけることが大切です。
日本高血圧学会のガイドラインでは、1日当たりの塩分(食塩)摂取量の目標を「6g未満」と設定していますが、同時に「より少なくすることが理想」ともしています。これは、米国ではすでに理想的な摂取量を「3.8g」とするガイドラインが示されているためです。
また、最近、高血圧が急増している中国での調査で、「メタボリックシンドロームの人ほど塩分の影響を受けやすい」というデータもみられます。高血圧にくわえ、肥満や高血糖などの症状がある人は、十分な注意が必要です。

 減塩のコツ

  • しょうゆやソースより酢やレモンやユズ、こしょう、ごまで味付けする工夫をする。
  • 天然だし(昆布、シイタケなど)をしっかりとり、しょうゆや塩を減らす。
  • ラーメンやそば、うどんの汁はできるだけ残す。
  • 寿司につけるしょうゆの量は少しにする。
  • 薄味に少しずつ慣れるようにする。

 ミネラル類をしっかりとる

塩分の排泄を助ける成分に、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラルがあります。

カリウムとマグネシウムを上手に

カリウムには、腎臓から余分な塩分(ナトリウム)を排出する働きがあります。マグネシウムは、その働きを助けます。
カリウムは野菜や果物、海藻類、豆類などに多く含まれています。中でも野菜類や海藻類はカロリーが低く、メタボリックシンドロームの人にもいいので、しっかり食べることが大切です。
また、マグネシウムは、海藻やナッツ類、豆類などに含まれています。野菜サラダに豆やナッツを入れるのもいい方法です。
ただし、血糖値が高い人は果糖の多い果物は控えめに。また腎臓病の場合には、カリウムのとりすぎで悪化することもあるので、医師に相談してください。

カルシウム不足は危険

カルシウムが不足すると、副甲状腺ホルモンやプロビタミンDが分泌され、これが心臓や血管を収縮させて血圧が上昇します。高血圧になりやすい人には、カルシウムの吸収や調節の機能がよくない人も多いので、カルシウム不足にならないように心がけることが大切です。
カルシウムの吸収率が高いのは牛乳や小魚類です。日本人の食生活では、カルシウムが不足しがちなので、意識的にきちんととることが大切です。
また、マグネシウムは、カルシウムの吸収を助けるので、ナッツ類や豆類なども一緒にとりましょう。

参考にしたい「DASH食」

「DASH食」というのを、聞いたことはありますか。アメリカで開発された、血圧を上げないための食事(Dietary Approaches to Stop Hypertension)のことです。
肉類や甘味類などの高脂肪・高コレステロール食を控え、野菜や果物、ナッツ類、豆類、魚類、低脂肪乳製品、穀類(全粒粉のパン)などを中心とした複合食が、血圧を下げる効果があるとしています。

DASH食 野菜、果物、ナッツ類、豆類、魚類、
低脂肪乳製品、穀類を中心とした複合食

アメリカの調査では、普通の食事をした人と比較すると、DASH食の人は収縮期血圧が11.4mmHg、拡張期血圧が5.5mmHg下がったとしています(ハーバード大学、ジョンズホプキンス大学などによる8週間に及ぶ調査)。
DASH食の特徴は、簡単にいえば低脂肪・低コレステロールで、カリウムやカルシウム、マグネシウムなどのミネラル類が多いこと(これはすでに紹介した(2)と共通します)。また、魚類を積極的に摂取し、魚油に含まれる不飽和脂肪酸による降圧効果もとり入れています。
血圧を下げる働きをする食品を複合的にとることで、相乗的な効果をあげる合理的な食事となっています。アメリカ人と日本人では体質などに違いはありますが、血圧によい食事には共通した面が多くあるので参考にしてみましょう。

ワンポイントアドバイス

食生活全体にいえることは、食べすぎ・飲みすぎを見直し、肥満(内臓脂肪型肥満)を解消することが大切です。減量による効果には個人差がありますが、一般的に体重を4〜5kg落とすと、血圧を低下させる効果がみられます。
また、間食や夜食(夜遅く食べる、寝る前に食べる)の習慣も、肥満につながり、血圧を上げる結果になりがちです。特に、夜間は、私たちのからだは消費エネルギーが減り、脂肪を蓄積しやすい状態になるので注意しましょう。

高血圧と生活習慣

高血圧は典型的な生活習慣病です。高血圧の要因となる運動不足やアルコールのとりすぎなどを見直してみましょう。

運動で血圧を下げる

適度の運動には、高血圧を改善する効果があります。さまざまな調査・研究から、運動によって私たちの体内では次のような作用が活発になり、相乗的に血圧を下げる効果がみられることがわかっています。

  • 交感神経の働きが低下して血管が拡張し、血圧が下がる。
  • インスリンの働きがよくなり、相対的に分泌量が減り、インスリンのもつ血圧上昇機能が弱まる。
  • 利尿作用が活発になり、体液量が低下し、血圧が下がる。

運動の条件と目標

  • 運動の種類=ウオーキングやアクアサイズ(水中運動)、サイクリングなどの有酸素運動が適しています。
  • 運動時間=1日30分程度 または、1回10分程度を数回
  • 運動頻度=週に3〜4日(理想は毎日)
  • 運動の強さ=軽く汗ばむ程度、あるいは軽く息がはずむ程度

運動中は少し血圧が上昇します。やりすぎは逆効果になるので注意しましょう。
また、高血圧の治療を受けている方は、自己流でいきなり運動を始めると危険なので、医師に相談してください。

節酒を心がける

アルコールは一時的には血流をよくし、血圧を下げる効果もみられます。しかし、飲みすぎると、反対に血圧を上げます。飲みすぎの状態が続くと、心疾患のリスクが急速に高くなります。
一般的に健康の目安となる適量は、男性で日本酒1合、ビールなら中ビン1本、焼酎なら半合弱とされています(女性は半分?3分の2程度)。個人差はありますが、「飲酒中に話がくどくなる、眠くなる、足元がふらつく」といった状態がみられたら、飲みすぎだと思いましょう。

喫煙のリスクを知っておく

喫煙の習慣が、高血圧の要因かどうかについては、まだ明確になっていません。
ただしタバコを喫うと、一時的に血圧が上昇します。また、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中の原因となることがわかっています。さらに、メタボリックシンドロームの重要な危険因子でもあります。
それだけに「血圧が高め」の人は、タバコの本数を控え、できれば禁煙をするほうがいいでしょう。

冬の血圧変動・夏の水分不足に注意を

冬は寒さの影響で血圧の変動が大きく、血圧の管理が難しい季節です。特に、起床時や入浴時には、注意が必要です。
起床時に部屋が寒いと、急激に血圧が上昇しがちです。少し前からエアコンのタイマー設定などで、部屋を暖めるようにしましょう。
入浴時には、脱衣所や浴室の寒さによる血圧上昇、入浴による血圧低下など、変動が大きくなりがちです。脱衣所は小型の暖房器具で、浴室は入るまえにシャワーを1?2分流すなどの方法で暖めておくと、血管への負担が少なくなります。

夏は、血圧にはあまり影響がないと思われるかもしれません。ところが脳梗塞が最も多いのは、実は夏なのです。その原因は水分不足にあります
血圧が高めで、動脈硬化を起こしていると、水分不足から血管が詰まりやすい状態になりやすいので、特に、注意が必要です。夏には意識的に早めに水分を補給し、また、家庭血圧の測定などで血圧の変動にも注意しましょう。

高血圧と漢方について

高血圧は、日本人にとても多い疾患のひとつで、約4300万人いるといわれています。
なかなか自覚症状がでないため、検診で指摘を受けてはじめて、高血圧であることを知る人も多いようです。

高血圧の治療では、降圧剤による血圧コントロールが一般的ですが、一生飲み続けたくない、できることなら降圧剤なしで血圧を下げたいという人も多いです。

高血圧は、常に血管に負担をかけている状態で、血管の内壁に傷がついたり、柔軟性が減って硬くなって動脈硬化を起こしやすくなります。さらに、脳卒中や心疾患、慢性腎臓病などの重大な病気につながるおそがあります。

最近の研究で、脳卒中は男女問わず血圧が高いほど発症率が高まることが分かっています。

高血圧を漢方で考えると?

漢方では、高血圧の原因の多くは、血行不良による血の汚れ、また血液を送り出す『心』の失調や心との影響の深い『肝』や『腎』の機能低下や乱れなどによると考えます。

もちろん、生活習慣が大きく影響する高血圧。塩分やコレステロールの高い食生活や肥満、運動不足、喫煙、ストレスなどのリスク要因を見直し、生活習慣を改善することは基本です。さらに漢方薬で、高血圧になりにくい体質づくりをしていきます。

高血圧 漢方では??

高血圧に用いる漢方は、血流を良くする、肥満を改善する、自律神経を安定させる、のぼせなどの熱症状をとる、などの作用により血圧を正常にしていくものです。血圧そのものを下げる降圧剤とはここが大きく異なります。

このため、同じ高血圧と診断されても、漢方では個々の体質によって薬の種類が変わってきます。実際の漢方相談で多い高血圧のタイプは『オ血(おけつ)』『肝火(かんか)』『陰虚(いんきょ)』です。

B  加齢でからだが消耗した『陰虚(いんきょ)』の高血圧

慢性化した高血圧や加齢とともに血圧が高くなっている場合、腎陰(からだの潤い)の不足(陰虚)が考えられます。

からだに熱がこもりやすく、陰陽バランスが崩れて血圧が不安定になっている状態です。若い人でも、日常的に睡眠不足や過剰なストレス、体力の消耗が続いていると、陰虚体質になりやすく高血圧の原因になります。

高血圧の他に、からだのほてりや渇き、寝汗、めまい、耳鳴り、足腰のだるさなどの症状が出やすくなります。

陰虚による高血圧には、腎陰を補い、こもった熱を潤しながら冷ます六味地黄丸、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸、二至丹などの漢方薬を用います。

臨床での活用漢方使い分けガイド

桃核承気湯(とうかくじょうきとう) 黄連解毒湯(おうれんげどくとう) 大柴胡湯(だいさいことう)
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん) 柴胡加竜骨牡蠣湯
(さいこかりゅうこつぼれいとう)
釣藤散(ちょうとうさん)
四物湯(しもつとう) 八味地黄丸(はちみじおうがん) 真武湯(しんぶとう)