薬草採集のポイントは?(薬草の見分けと薬草の採集の時期)
●見分け
薬用の採集ではまず目的とする 正しい薬草を採集することです。自ら野外に出て薬草を採集し、生薬を調製して服用しようとする場合にはとくに注意が必要です。よく似た植物から必要とする正確な薬草を見分ける必要があります。とくに有毒植物と混合しての採集があると服用に際して中毒の原因となることがありますので注意をしなければなりません。ゲンノショウコの花の咲く前、葉のみのときには有毒植物のキンポウゲやキツネノボタンの葉と非常によく似ています。
●採取の時期
薬用とする部分により実際に採取する時期が異なり、その時期をのがさないようにする必要があります。正しい薬草を正しい採集時期に正しい調製方法によって、正しく用いることが健康への必須条件です。特に薬用部分には薬効を示す成分がもっとも多く含まれている時期に採集しなければなりません。
・全草か葉を用いるもの
ドクダミ、ゲンノショウコ、ハッカなどのように全草か葉を用いるものは開花期に採集します。その時期がもっとも旺盛な時期であるからで、2〜3日間くらい晴天の続く日に採取するのがもっともよいでしょう。
・根や根茎を用いるもの
キキョウ、タンポポ、リンドウ、オウレン、トウキ など根や根茎を用いる場合は地上部がすでに枯死し地上部の生活力も寒さのために低下して栄養の大部分が地下部に移動してしまった時期である秋から冬にかけて採集します。
・花を用いるもの
ベニバナ、キクなどのように花を利用するものは開花直後か最盛期に採集します。この場合も2〜3日間晴天が続く日が好ましいでしょう。
・実を用いるもの
キササゲ、ナンテン、エビスグサ、ハトムギのように果実や種子などを利用するものは完熟して種子が果皮よりとび散る寸前に株や枝ごと刈り取って、むしろの上などで4〜5日間干してから採集するようにします。
・花蕾を用いるもの
コブシ、エンジュのように花蕾を利用するものは開花前のいまだ花蕾の堅いころに採集します。
・樹皮を用いるもの
キハダ、アケビなど樹皮やつるなどを利用するものは夏から秋にかけて採集しますが、キハダのようにはいだ樹皮からさらに最外層の周皮(コルク層)を取り除く必要があるものは、梅雨期のようにまだ、根から地上部の葉に水分が供給され続けている時期がよく、樹皮中に適当な水分があり非常にはがれやすいからです。しかし乾燥するのに雨期のため自然乾燥ができず、火力による強制乾燥が必要となることもあります。ときたま購入する黄柏で、一部が黒くこげているのはこのためです。
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危険な有毒植物にはどんなものがありますか?
有毒植物は有毒成分を含み人間や動物が食べたり触れたりするとき著しく中毒症状を引き起こすものをいいますが、その中には古く毒薬変じて薬になるといわれているとおり、用い方によっては薬草としての期待があるものもあります。薬草と毒草との間に切り離すことのできない関係があります。一般に毒草とされるものには成分としてアルカロイドや配糖体を含むものが多く、これらは少量でも非常に強い生理作用があります。量を誤ると激しい副作用や中毒症状を引き起こすことがありますので注意が必要です。日本産の著明な毒草には約30種類が知られています。このうち致命的な成分猛毒成分をもつものはドクウツギとトリカブトの類です。一般にトリカブトが所属するキンポウゲ科、トウダイグサ科には有毒成分を含むものが多く、有毒植物の代表的なものにはドクゼリ、シキミ、アセビ、ハシリドコロ、チョウセンアサガオ、ヒョウタンボク、ヒガンバナ、スズラン、フクジュソウなどがしられています。
アサマツゲ(ツゲ科)
葉および樹皮を痛風、リウマチに煎用しますが、過量は嘔吐、下利、反射痙、麻痺などの中毒をおこします。
イチイ(イチイ科)
薬用ですが、種子は赤みがあって小児が食べやすく、嘔吐、腹痛、下痢、紅疹などの中毒をおこします。
イチリンソウ、キツネノボタン、キンポウゲ(キンポウゲ科)
草本の液汁は引赤、発泡、湿疹を引き起こし服用すると胃腸炎、呼吸困難、四支の麻痺などの中毒を起こします。
ウルシノキ(ウルシ科)
本植物のすべての部分、とくに樹液は皮膚の局部に水疱瘡を生じます。ツタウルシ、ヤマウルシも同様です。
キツネノカミソリ、ヒガンバナ(ヒガンバナ科)
四アルカロイドを含んでいて嘔吐様の中毒が強烈です。
ドクウツギ(ドクウツギ科)
果実に含まれる配糖体は中枢ことにケイレン中枢を刺激して後に麻痺させるため呼吸困難、脈拍遅緩、昏睡、ケイレン、窒息などの中毒をおこします。
ドクニンジン(セリ科)
運動神経の末端を麻痺させて運動不能をきたします。
レンゲツツジ(ツツジ科)
葉および花に配糖体が含まれ、特に心臓機能に作用します。
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薬草の調製のポイントはどんな点ですか?
●修治(しゅうち)
天然物とくに薬用植物から薬用に適した形に調製することを漢方では修治(しゅうち)といい、修治されたの植物では、皮、果実、根のように一部分であり、これは生薬とよばれるものです。修治はあくまでも薬効を高めるための調製であり、現在の品質の高い生薬を得るための調製と同じです。はじめは修治も土砂や混入した他の植物を除く程度でしたが、害虫を予防し、附子等で見られるように炮(ほう)じて有毒成分を減毒することや、麻黄の茎のように節間に発汗作用があり、節に止汗作用があることから、発汗剤としての使用にあたっては節を取り除くといったようなことも今では重要な修治となっています。附子の減毒も麻黄の節と節間の反作用関係も現在では薬理的に証明が可能ですが、古い昔にあってこのようなことを見い出し修治をしたことに漢方薬、民間薬の歴史の重みが感じられます。
●修治の方法
漢方で用いられる生薬類には修治は大変深い意味をもっているものが多くあります。生薬名の頭につけられている記号には、修治の方法、品種、産地、性状までも知ることができます。
 晒(さらし)・・・・
   日に晒して白くしたもの
 生干(しょうぼし)・・・
   加工しないでそのまま乾燥したもの。生薬の多くは生干したものですが、生干を冠したものはありません。
   生(しょう)をといえば生干の生薬を入手することができます。
 熟(じゅく)・・・
   何らかの修治が施されたもの
 刻(こく)・・・
   こまかく切ったもの
 川(せん)・・・
   中国四川省産のものをいい、川黄連、川貝母などがあります。
 土(ど)・・・
   国産の意味です。真物でなく、多くは代用とされるものの生薬に冠されます。
 和(わ)・・・
   日本産の意味で、漢薬により処方される漢方薬はあくまで中国産のものである場合につけるもので、
   和黄連、和辛夷などがあります。
 野(や)・・・
   原野に自生するもので栽培品と区別する場合に使用します。野黄連は自生する黄連から調製されたものを
   意味します。
これらのものは主として生産者と消費者への供給にあたる中間業者により調製されるものですが、
使用するに際しては
 炮(ほう)・・・
   ぬれた紙に包んで熱灰に埋め込むことで炮附子(ほうぶし)などがあります。
 炙(しゃ)・・・
   串にさして炭火であぶることで炙甘草(しゃかんぞう)があります。
 けやき・・・
   熱湯に浸すことです。
 炒(しょう)・・・
   金属製の鍋か土器で炒(い)ることです。
 蒸(じょう)・・・
   蒸すことです。
 煮(しゃ)・・・
   煮ることです。
 露(ろ)・・・
   晴れた雲のない夜に屋外でさらすことです。
などの修治も心得ておくことが必要です。
●乾燥
一般に薬草を採取したものはすみやかに乾燥する必要があります。種類、形態、とくに含有される成分によって乾燥の方法が異なることは当然です。直射日光にあてての風干、日陰での風干、また火力による風干があります。肉質で厚いものや粘性に富んだものは蒸してから、輪切りにしたり、割ったりして乾燥する必要があります。
ベニバナやハッカなどのように質がうすく香気がの強いものは日光や火力などを避けて低温で風通しのよいところですみやかに乾燥しなければなりません。
センブリやゲンノショウコなどのように全草のままで乾燥させる場合は小さな束として根元をひもでしばり、つるしたり、さおにかけたりして軒下などの日陰の風通しのよいところで乾燥させます。
根や根茎類は水洗いしてよく泥を落とし根茎などではヒゲ根も取り去り、日光で乾燥しますが肉質のトウキやセンキュウなどはすこし蒸してから乾燥させた方がすみやかに仕上がります。
●カビや虫の発生
乾燥が充分であるとカビが生えて変質することもなく、また、害虫も防げます。乾燥後保存中に湿気をおびてカビや害虫を起こすこともありますので、保存には乾燥した缶やビンまたは紙袋に入れシリカゲルなどを同封して保存するとよいでしょう。
カビが少々生えてきたときはすみやかに数日間日光に当てて風通しのよいところで乾かします。
虫の発生したときは、二硫化炭素か四塩化炭素を用いて殺します。ビニール袋かかんなどに生薬を入れ、二硫化炭素か四塩化炭素を綿にしみこませて入れ、これらのガスで殺虫します。いずれも揮発性ですので殺したあとは、生薬をとりだし風通しのよいところで乾燥すればよいでしょう。また、冷蔵庫のフリーザーなどに入れると虫を殺すことができます。ハッカのような精油成分が多いものはこの方法がよいといえます。
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薬草の煎じ方は?
煎じるということは、漢方薬や民間薬に水を加えて煮ることです。これにより有効成分が溶け出してきます。漢方薬の場合これを湯液、煎液といい民間薬の場合は煎益、煎汁とよんでいます。煎じる量は種類により異なっていますが、たいていの場合3〜20gくらいです。分量も生薬の性質や使う目的によって異なっていますので注意を要します。煎液は毎日煎じて、その日のうちに飲むようし、煎じカスを再度使用しないようにします。
煎じ方は次の要領で行います。
 @煎じる容器は土瓶のような焼きものか、ガラス製のものがよいのですが、アルミ、アルマイト、ホーロー引きの
   やかんや鍋でもよいでしょう。ただし鉄や銅製のものは煎汁との間で化学変化を起こし変質する恐れが
   ありますので避けることが必要です。
 A容器の中に1日量を入れ、水0.4〜0.6リットル(約3合)を加えます。やや弱い火で煎じ、沸騰してきたら
   さらに火を弱めて40〜50分間くらい煮て、液の量がおよそ半量になったら火を消し、熱いうちに茶こしか布、
   ガーゼなどでかすをこし分けます。
●飲み方
飲み方はこした煎液は1日分であり、これを1日2〜3回ときに数回に分けて食前か食間の空腹時に温かいままで服用します。食前とは食事前の30〜60分をいいます。
湯液、煎液は温めて飲むのがよいのですが、人により、病気により異なります。少しの量でも胃に負担を感じたり、吐き気のある場合には冷やして、少量ずつ飲むか、食後に服用します。
とくに嘔吐、喀血、吐血、鼻血などの場合には冷やしてから服用します。風邪や下痢、慢性病の場合には、まず温めて飲むほうが効き目が良いようです。
老人や小児の1日量は普通の大人の体重を50kgとして換算して減量します。例えば体重15kgの小人は大人の約3分の1の量となります。もちろん症状による増減はあります。また年齢により10歳前後では大人の2分の1の量、6歳くらいで大人の3分の1量、3歳くらいで大人の4分の1量を目安に飲みます。
良薬は口に苦しといいますが、とくに漢方薬の場合、なかでも慢性病でははじめは苦くて飲みにくいのですが、順々とおいしく飲むことができるようになります。いわゆる病気の証と湯液の証が一致しているということで湯液がおいしくなっているということがあります。
今日の漢方薬では、煎じる場合が少なくエキス剤のエキス散、錠、顆粒などの製剤品となっていますが、この場合もお湯に溶かして煎液の形でのむかお湯で飲むようにします。
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粉末にするための黒焼きのつくりかたは?
黒焼きのことを漢方では「霜」といいます」。草根木皮禽獣虫魚などの天然物を土製の容器内で空気をたって蒸し焼きにします。黒焼きは腐ったり、カビがはえたり、虫にくわれたりしませんので、保存には便利な方法です。黒焼きの道具としては、素焼きのほうろくや火消しつぼ、きゅうすなどを使用します。
@まず、容器に材料を入れて、すきまができないように針金などでしばります。
A地面に容器よりやや大きめの穴を掘り、よく火のついた炭火を入れ、その上に容器をつるします。そして容器と穴のすきまにもみがらをつめます。もみがらはなくても差し支えありませんが、あった方がきれいに焼きあがります。
B焼けると煙がでなくなりますから、火からおろし、そのまましばらく放置します。すぐにふたを開くと空気が入り、燃え上がって灰になってしまいます。
Cよく冷めてからフタをとりできあがった黒焼きを乳鉢などで粉末にします。植物性のもので、少量だけを黒焼きにする場合には、ぬらした和紙に材料を包み、火鉢の灰の中に埋めたり、フライパンに材料をのせ上から空き缶でおおったり、アルミホイルに包んでガス台で焼いたり、いろいろな方法があります。
薬用酒のつくりかたは?
酒自身も「酒は百薬の長」といい薬の一種とされてきました。この酒に種々の生薬を浸けて、生薬に含まれている成分を酒に浸出させたものが薬用酒です。薬用酒も古くからあり、『本草綱目』にも多くの薬酒が収載されています。
一般に薬酒は生薬か生(なま)のものを用いますが、いずれも水洗いしてごみや土、枯れた部分などを取り除いてよく水を切って用います。半乾きのとき用いるのが理想的です。乾燥してある生薬などは強い味が出る傾向がありますので、生の原料が入手できれば生の方がよく、半乾きや生で漬ける場合は出来上がる酒も温和です。
アルコールはホワイトリカーがよく、その量は原料に対して約3倍を使用します。漬ける容器は完全に密栓できることが条件であり、市販されている果実酒ビンでネジ山の数が3つくらいあるのがよいでしょう。
飲みやすくするため、甘味料として砂糖、氷砂糖、グラニュー糖やハチミツなどを用いますが、砂糖が一般的でよいでしょう。最初は生薬の3分の1〜5分の1量くらいを入れておき、飲むときに甘味を調節した方がよいでしょう。また漬け込み中は冷暗所におき、時々容器を動かすことが必要です。
最低2〜3ヶ月間は放置すべきで、植物成分がアルコールにより抽出されるいわゆる完熟には3ヶ月〜半年を要します。
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