|
|
|
中医診断と治療 |
疲労倦怠感 |
精神的あるいは肉体的に疲れ・無力・倦怠などを自覚することであり、持続的・間欠的・発作的などの違いや程度の違いがみられます。急性・慢性の疾病で非常によく現れるほか、精神的ストレス・過労・年齢的要因・体質などの関連でも発生します。ここでは疲労倦怠感(疲れる・だるい)が主体になるものについて説明します。 |
虚証 |
疲労倦怠感は陽気つまり機能の低下が直接ひきおこす症状である。陽気の不足に陰液の不足が関与することが多い。 |
からだに必要不可欠な機能的・物質的要素である「正気」が不足した状態であり、先天的虚弱・老化・慢性病による消耗・過労・精神的ストレスによる消耗などで発生するほか、熱病の回復期・激しい発汗や吐瀉のあと・出血のあとなどにも現れます。正気には大きく分けて陽気(気)と陰液(血・津液・精)の別があります。陽気は主に機能を、陰液は主に物質を代表しています。ただし、陽気は陰液をもとにして生じ、陰液は飲食物からの陽気の作用を通じて生み出されるので、陰液と陽気には相互に深い関連性があります。疲労倦怠感は、陽気の不足すなわち機能の低下が直接ひきおこす症状です。しかし、陽気の不足が陰液の産生を減少させたり、陰液の不足から陽気の発生が不十分になるというように、陽気不足の半面として陰液不足が関与していることが多いといえます。陽気が不足すると元気がない・気力がな・生気がない・おとなしく静かである・横になりたがる・動いたりものを言うのがおっくう・朝が起きにくい・すぐに疲れるなど、精神・身体両面の機能低下による無力症状がみられます。陰液の不足をともなうときには、さらにるい痩・色つやが悪い・筋肉が軟らかく張りがない・爪がもろい・毛髪につやがないなどが現れます。 |
|
@腎陽虚 |
疲労倦怠・元気がないなどの無力症状に、知覚の鈍麻・生殖能力・知能・運動能力などの衰え・冷えなど。 |
先天的虚弱・老化・なん性疾患などで、腎の陽気が衰えた状態です。 |
症状 |
疲労倦怠・元気がない・活力がないなどの無力症状とともに、視覚・聴覚・味覚・触覚などの知覚の鈍麻、生殖能力・知能・運動能力などの衰え、さらに冷え・寒がるなどの虚寒の症状をともないます。 |
治療法 |
からだを温めて元気をつける「補陽」を行います。 |
主な薬物 |
「血肉有情の品」と呼ばれる動物薬の鹿茸・紫河車・鹿角膠、および補陽の杜仲・菟絲子・附子・肉桂など。 |
方剤例 |
|
|
A気虚 |
慢性病・虚弱体質・過労などによる機能の低下 |
慢性病・虚弱体質・過労などによる気の不足・すなわち機能低下の状態です。 |
A脾胃気虚 |
脾胃の運化が低下して水穀の精微を全身に供給できないために疲労倦怠感をひきおこす病態です。さらに進行して陽気の温煦が低下すると陽虚が現れます。消化吸収機能が悪くなってエネルギーの供給が不足した状態に相当します。 |
症状 |
疲れやすい・元気がない・四肢がだるいなどとともに、食欲不振・味がしない・少ししか食べられない・消化が悪い・胃のもたれ・泥状便〜水様便・腹が張るなどの胃腸症状がみられます。脾胃陽虚では、さらに寒がる・冷えなどの虚寒がみられます。 |
治療法 |
消化吸収機能を高めて元気を出させる「健脾益気」を行います。 |
主な薬物 |
人参・白朮・茯苓・炙甘草・など。陽虚には補陽の環境・附子などを加えます。 |
方剤例 |
|
|
B気虚下陥 |
気が不足して昇挙する能力が低下し、気機が下陥する病態です。筋力が低下したアトニー状態に相当し、支持組織の緊張低下による内臓の下垂傾向がみられるほか、血管抵抗が弱くなり重力に抵抗して血液を上部に送る能力が低下するために虚血性の頭部症状もよく現れます。 |
症状 |
疲れやすい・元気がない・倦怠感などとともに、胃下垂・遊走腎脱肛・子宮下垂・下腹部の下墜感・などの下垂症状、立ちくらみ・ふらつき・めまい・頭痛・肩こりなどの上部の虚血性の症状がみられます。 |
治療法 |
諸気候を活発にし筋の緊張を高める「益気昇陥」を行います。 |
主な薬物 |
黄耆・人参・柴胡・升麻・葛根など。 |
方剤例 |
|
|
B気血両虚 |
元気がないのどの無力症状のほか、顔色につやがない・爪がもろい・しびれ・目のかすみ・不眠・月経周期が遅れる。 |
虚弱体質・老化のどによる気血の不足、慢性疾患・出産・出血などによる気血の消耗、気虚が慢性に経過して血の産生が不足するなどの原因で、気虚と血虚の両面が発生する病態です。機能低下だけでなく栄養面や循環血液の低下をともなう状態に相当します。 |
症状 |
疲れやすい・元気がない・倦怠感・息切れなど気虚の症状以外に、顔色につやがない・皮膚のきめが粗い・爪がもろい・筋肉のひきつり・しびれ・目の疲れ・目のかすみ・不眠・眠りが浅い・夢をよくみる・目が覚めやすい・月経量が少ない・月経周期が遅れるなどの血虚の症状をともないます。 |
治療法 |
機能を高めるとともに栄養状態を改善する「気血双補」を行います。 |
主な薬物 |
補気の人参・黄耆・白朮、補血の当帰・白芍・塾地黄・酸棗仁・竜眼肉など |
方剤例 |
|
|
C気津両傷 |
元気がないなどの無力症状のほか、のどの渇き・水分をほしがる・・口唇や保父の乾燥など。 |
熱病・暑熱の環境・激しい運動や労働、あるいは激しい吐瀉・利尿剤の服用過多などにより、気と津液を消耗した病態で、かなり急性にひきおこされます。気力と退役(津液)が失われた状態に相当します。熱病の回復期によくみられるほか、夏バテの一形態として季節的現れることが多くなります。 |
症状 |
元気がない・倦怠感・疲労感・息切れ・だるいなどの気虚の症状以外に、のどの渇き・水分を欲しがる・口唇や皮膚の乾燥・舌の乾燥など津液不足の乾燥症状がみられます。 |
治療法 |
元気をつけて体液を補充する「益気生津」を行います。 |
主な薬物 |
益気生津の人参・炙甘草、生津の麦門冬・五味子・玉竹・天花粉・沙参など。 |
方剤例 |
|
|
D気陰両虚 |
元気がななどのほか、るい痩・皮膚の乾燥・のどの渇き・午後の熱感。手のひら足の裏のほてり・のぼせなど。 |
熱病・慢性病・老化などによる消耗で、気と陰液が同時に不足し虚熱をともなう病態です。体力や機能が低下すると同時に、栄養状態の悪化・体液の喪失・体内の異化作用亢進による熱量増加などが加わった状態に相当します。 |
症状 |
元気がない・倦怠感・疲労感・息切れ・だるいなど気虚の症状以外に、るいや皮膚が乾燥してつやがない・のどの渇き・午後の熱感・手のひらや足の裏のほてり・頬部の紅潮・のぼせ・ねあせなど陰虚の去熱症状がみられます。 |
治療法 |
元気をつけ機能を高めると土井時に、栄養・体液を補充して虚熱を冷ます「益気滋陰」を行います。 |
主な薬物 |
益気の人参・炙甘草、滋陰の生地黄・玄参・麦門冬・天門冬など。、 |
方剤例 |
|
|
気機不利 |
気の流れがスムーズに行われないために、疲労倦怠感を生じる。 |
さまざまな原因で気機すなわち気の流れが円滑でなかったり停滞するために、突然にあるいは間欠的に疲労倦怠を感じる病態です。車にたとえるとガソリンは十分にあるのに、途中のバルブの開閉がうまくいかなかったり、何かがパイプにつまり、エンジンが急激にあるいはときどき不調になるようなものです。 |
@少陽枢機不利 |
急に疲れて間もなく回復する状態を繰り返す。いらいら・口が苦い・寒くなったり熱くなったりする・食欲不振・むくみ・動悸・咳・あせがでないなど。 |
気と津液が(水分)が通行する通路である三焦(少陽の部位)が、さまざまな要因によって邪魔されてときに通じにくくなる病態で、一時的に気機が停滞すると突然疲れ、まもなく気の流通が回復するともとにもどります。自律神経失調症の一つのタイプです。 |
症状 |
突然疲れて間もなく回復するといった状態を繰り返すほか、いらいら・口が苦い・口の乾燥・めまい・目のかすみ・胸脇部が張って苦しい・寒くなったり熱くなったりする。吐き気・食欲不振・動悸・咳・汗がでない・むくみ・排尿困難などの気・津液の流通失調による多彩な全身症状が出没し反復します。 |
治療法 |
少陽での期の流れを順調に通じさせる「通調少陽枢機」を行います。 |
主な薬物 |
柴胡・半夏・生姜オウゴンなど。 |
方剤例 |
|
|
A肝鬱気滞 |
精神的な原因で疲労倦怠感が生じて反復。いらいら・抑うつ感怒りっぽい頭痛など。 |
緊張・精神的ストレスなどにより肝気が鬱滞し、気奇を疏泄することができなくなる病態です。情緒系・自律神経系の緊張にともなう機能の停滞であり、精神的疲労に相当します。 |
症状 |
精神的な原因で突然に疲労倦怠感が生じて反復し、抑うつ感・ゆうつ・やる気がでない・いらいら・怒りっぽい・頭痛・不眠・ヒステリックな反応などがみられます。体力的には衰えていないので、運動したり・声をだしたり好きなことに没頭するといった肉体的・精神的な発散により、一般的にリラックスして疲労倦怠感が消失することが多いといえます。ただし、肝鬱気滞の状態が長期にわたったり反復すると、次第に体力・気力が消耗して、虚証へと変化していくことになります。早期にストレスを解除したり、治療によってストレスへの抵抗性を高めることが必要です。 |
治療法 |
肝気をのびやかにして世親機能を円滑に働かせるようにする「疏肝解鬱」を行います。 |
主な薬物 |
柴胡・香附子・青皮・ウコン白芍薬など |
方剤例 |
|
運動や趣味などで、適宜鬱した精神状態を発散させることが重要です。 |
湿滞 |
体内に水分が停滞し、余分な重量をかかえたり、血管を圧迫したり神経の機能を阻害する。 |
さまざまな原因で体内に湿邪が停滞し、気機を阻滞する病態です。体内に水分が停滞し、余分な重量をかかえるためにからだが重だるく、また水分が血管を圧迫したり神経の機能や伝送を阻害して機能が悪くなる状態に相当します。 |
@湿阻気機 |
倦怠感・からだが重だるい・むくみ・食欲不振・吐き気・ぼんやりするなど。 |
湿気の多い環境で外質が侵入したり、飲食の不摂生などで脾胃の運化が阻害されて内湿が生じ、内・外の湿邪が気奇を困阻する病態です。 |
症状 |
倦怠感がありからだが重だるく、むくみをともなうのが特徴で、食欲不振・吐き気・泥状便・頭がぼんやりする・いつも眠い・べっとりした厚い舌苔などをともないます。 |
治療法 |
水分を除去し気の流通を強める「理気去湿」を行います。 |
主な薬物 |
蒼朮・白朮・ヨクイニン・カッコウ・厚朴など。 |
方剤例 |
|
|
A湿熱壅滞 |
全身倦怠感・からだが重だるい・むくみ・頭の発汗・口が粘る・口臭・腹満・下痢など。 |
湿熱の邪の侵襲・湿邪の停滞化熱・飲酒癖などが原因で、湿熱が停滞して気機を困阻する病態です。「湿熱燻蒸」といわれるように、熱で蒸すような症状が現れます。体内の水分停滞と同時に炎症や神経系の興奮による熱症状を呈する状態で、ウイルス性疾患・自律神経失調症・飲酒癖・美食・大食などでよくみられます。 |
症状 |
全身倦怠感・からだが重だるい・むくみなどの湿阻気機の症状のほか、頭からの発汗・口が粘る・強い口臭や体臭・腹満・下痢・微熱の起伏・尿が濃く少ない・悪臭のある帯下・甚だしいと黄疸・黄色くべったりした舌苔などをともないます。 |
治療法 |
湿を除くと同時に熱を冷ます「清利湿熱」を行います。 |
主な薬物 |
インチン・滑石・山梔子・ヨクイニン・赤小豆・車前子・猪苓・沢瀉など。 |
方剤例 |
インチンコウトウ |
インチン五苓散 |
連朴飲 |
杏仁滑石湯 |
|
|