頻尿 |
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頻尿とは、尿の回数通常の範囲を超えて多く、不快に感じることです。尿は膀胱に貯蔵され、腎の陽気によって貯蔵と排泄が調節されているので、頻尿は直接的には膀胱・腎の病変によって発生します。ただし、津液が尿に変化する過程には、肺の宣発粛降・脾胃の運化さらに肝の疏泄も関与しているので、他臓の病変も頻尿をひきおこすことがあります。夜間多尿は夜間の尿量増多ですが、実際には夜間に排尿の回数が増加する「夜間頻尿」も含まれているので、一般的な頻尿とはやや異なりますが、本項に含めています。緊張・冷えなどで生じる一時的な頻尿は、本項に含めません。 |
急性の頻尿 |
急性に発生して経過も長くない頻尿の多くは、外邪の侵襲によります。治療が不適切であったり、
体質素因が大きく関与する場合には、遷延しtり慢性化することもあります。 |
膀胱湿熱 |
頻尿・尿意促迫・排尿痛・排尿困難・尿道の灼熱感・残尿感・尿の混濁・夜間にも同様の症状があって眠れず、発熱をともなうことがある。 |
湿熱の邪が暴行を犯し、邪熱が尿を下迫するために頻尿になりますが、湿邪が気機を阻滞しているので排尿が困難で疼痛をともなう病態です。尿路系感染症に相当します。 |
症状 |
頻尿とともに尿意促迫・排尿痛・排尿困難・尿道の灼熱感・残尿感・尿の混濁などを呈し、夜間にも同様の症状があって眠れず、発熱をともなうこともあります。 |
治療法 |
熱を冷ますとともに利尿によって湿熱の邪を外に排出する「清熱利湿」を行います。 |
主な薬物 |
滑石・沢瀉・木通・車前子・山梔子など。 |
方剤例 |
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肝鬱気滞 |
頻尿・尿意促迫・残尿感・尿量が少ない・情緒の変動で頻尿が甚だしくなる・睡眠中は症状が消失、いらいら・怒りっぽい・ゆううつなど。 |
精神的ストレス・緊張などによって肝気が鬱し、疏泄が失調して膀胱の気機を擾乱するために、尿の貯留が少ないにもかかわらず頻尿をひきおこす病態です。膀胱神経症に相当します。 |
症状 |
頻尿とともに尿意促迫・残尿感がみられますが、尿量が少なくて尿の混濁はなく、情緒の変動によって頻尿が甚だしくなり、睡眠中には症状が消失し、いらいら・怒りっぽい・ゆううつ・ヒステリックな反応・胸脇部が張って苦しいなどをともないます。 |
治療法 |
肝気の鬱結を解いてのびやかにさせ、疏泄を正常化させる「疏肝解鬱」を行います。 |
主な薬物 |
柴胡・青皮・ウコン・香附子・センレンシ・枳実など |
方剤例 |
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寒凝下焦 |
頻尿・尿意促迫・残尿感・下腹部や下肢の冷え。 |
寒冷の季節や環境の下で冷え、凍結の性質をもつ寒邪が下焦の腎・膀胱を侵犯し、腎と膀胱の気機を凝滞させて乱すために頻尿を呈する病態です。陽虚や血虚の体質のものによく発生し、対処を誤ると慢性に移行します。膀胱炎とよく間違われて抗生物質などを投与されますが、原因は冷えですから、効果がないだけではなく薬物の刺激で悪化を招きます。
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症状 |
頻尿とともに尿意促迫・残尿感がありますが、尿は希薄で混濁しておらず、下腹部や下肢の冷えをともないます。 |
治療法 |
からだを温めて血行を強め、寒冷を除いて機能を回復させる「温中散寒」を行います。 |
主な薬物 |
乾姜・附子・肉桂・生姜・桂枝・当帰・烏薬・小ウイキョウ・延胡索など。 |
方剤例 |
苓姜朮甘湯 |
人参湯 |
当帰芍薬散 |
当帰四逆加呉茱萸生姜湯 |
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慢性・反復性の頻尿 |
慢性に反復して経過の長い頻尿は、体質的な要素の関連が強く、多くは虚証といえます。 |
腎虚 |
腎は精を蔵し、精から生発する腎気が津液を温め気化してめぐらせることと固摂の両面を行い、膀胱での尿の排出と貯留を調節しています。腎精が不足すると気化と固摂が失調して頻尿などの異常があらわれます。 |
@腎気不固 |
頻尿・尿失禁・遺尿・遺精、頭のふらつき・耳鳴り・腰や膝がだるく無力など。 |
先天的虚弱・老化・慢性病・性生活の不摂生・過労などにより、腎精が不足して腎気の固摂が失調し、頻尿・遺尿・遺精などをひきおこす病態です。 |
症状 |
頻尿とともに尿失禁・遺尿・遺精などがみられ、頭のふらつき・耳鳴り・腰や膝がだるく無力などをともないます。 |
治療法 |
腎の固摂を強めるとともに腎精を補充して気化を正常化する「益精固腎」を行います。 |
主な薬物 |
固腎縮尿の桑ヒョウショウ・蓮鬚・烏薬・銀杏・山茱萸・ケンジツ、益精の山薬・トシシ・益智仁・熟地黄・枸杞氏など。 |
方剤例 |
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桑ヒョウショウ散 :桑ヒョウショウ・石菖蒲・竜骨・遠志・人参・茯神・当帰・醋炙亀板 |
縮泉丸 :烏薬・益智仁・山薬 |
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A腎陰虚 |
頻尿・尿は濃く少ない、めまい・耳鳴り・頬部の紅潮・のどの渇き・からの熱感・のぼせ・手足のほてり・ねあせ・腰や膝がだるく無力など。 |
慢性病・老化・性生活の不節制・熱病などで腎の陰精が不足し、陽気が相対的に余って内熱を生じ、精不足による固摂の低下と内熱による尿に下迫のために、頻尿が生じる病態です。 |
症状 |
頻尿で尿は濃く少なく、めまい・耳鳴り・頬部の紅潮・のどの渇き・からだの熱感・のぼせ・手足のほてり・寝汗・腰や膝がだるく無力・舌質が紅、舌苔が少〜無苔・脈が細く速い
などがみられます。 |
治療法 |
腎の陰精を滋補して固摂を性状かさせるとともに内熱を冷ます「滋陰清熱」を行います。 |
主な薬物 |
滋陰補腎の生地黄・熟地黄・玄参・枸杞氏・亀板・鼈甲・阿膠、清熱の知母・黄柏・牡丹皮・地骨皮など。 |
方剤例 |
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B腎陽虚 |
夜間の頻尿・多尿、日中は回数・量が少ない、元気がない・四肢の冷え・寒がる・むくみ・腰や膝がだるく無力など。 |
慢性病・老化などによる衰弱で腎の陽気が不足し、津液を温めて気化し全身に巡らせることができないために、津液が停滞して浮腫や日中の尿量減少が生じる一方、陽気が裏にむかう夜間には気化がやや回復するために、夜間頻尿をひきおこす病態です。 |
症状 |
夜間頻尿・多尿があり、日中は尿の回数も量も少なく、元気がない・四肢の冷え・寒がる・むくみ・腰や膝がだるく無力・舌質が淡白・水様の舌苔・脈が弱く遅いなどをともないます。 |
治療法 |
腎の陽気を補い体内を温めて気化を正常化する「温補腎陽」を行います。 |
主な薬物 |
温補腎陽の鹿角膠・附子・肉桂・杜仲・トシシ・益智仁・インヨウカクなど。 |
方剤例 |
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肺虚失制 |
頻尿・多尿・色がうすい・尿失禁・夜尿、疲労すると増悪、元気がない・疲れやすい・息切れ・声に力がないなど。 |
慢性病・先天的虚弱・老化・過労などで肺気が衰えて虚寒が生じ、宣発の機能が不十分になり津液が布散されないまま下降し、膀胱の約束が失調して頻尿をひきおこす病態です。 |
症状 |
頻尿で尿量が多く色もうすく、甚だしければ尿失禁や夜尿をともない、疲労すると憎悪し、元気がない・疲れやすい・息切れ・声に力がない・舌質が淡・脈が弱いなどが見られます。 |
治療法 |
肺を温め気を補って津液の布散を正常化させる「温肺益気」を行います。 |
主な薬物 |
温肺の環境、益気の人参・炙甘草など。 |
方剤例 |
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頻尿について |
虚実の違いがあり、虚証は陽虚が多く、尿はうすく量は多い。実証は湿熱が多く、排尿痛・尿意促迫・残尿感などを呈する。頻尿は肺・脾・腎の機能失調に起因し、一臓あるいは複数の臓が失調することによって発症する。肝の疏泄失調も関与する。 |
文献 |
{傷寒論:弁陽明病脈証並治}{張氏医通:小便不禁}{血証論:弁閉} |
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