皮膚のかゆみ(皮膚掻痒)
概念
皮膚掻痒とは、皮膚の掻痒を自覚して掻きたくなるが、原因となるような皮膚の変化が認められないものを言う。ただし、掻破したために二次的に皮疹を発生する場合がある。{外科証治全書・四巻}に遍身掻痒し、併せて瘡疥なきに、これを掻きて止まず」とあるのがこれに相当する。{諸病源候論}では「風掻痒」「風痒」{外科証治全書}では「痒風」{幼科全書}では「身痒」と記載している。陰嚢・女性の陰部・肛門などの限局性の掻痒や、丘疹・水泡などののちに皮膚掻痒を訴える場合は、本項に該当しない。
弁証分類
@血熱の皮膚掻痒
青壮年期に好発する。皮膚の掻痒・掻破して線状の血痕を残す・夏に憎悪し冬に軽快する・温めると憎悪し冷やすと軽減する・口乾・いらいら・舌質は絳あるいは舌尖が紅・舌苔は薄黄・脈は弦数あるいは滑数を呈する。
鑑別分析
いらいら・焦燥感があったり辛香の物や熱いものを過食し、血熱生風を生じて発生する。
治法
涼血清熱・消風止痒
方剤例
止痒熄風湯
A血虚の皮膚掻痒
老人に多く、秋冬に憎悪し春夏に軽快する。皮膚の乾燥・広範な掻痕と血痂・掻破部の苔癬化・粃糠状の落屑・顔色につやがない・動悸・不眠・頭がふらつく・目がかすむ・舌質は淡・無苔・脈は弦細を呈する。
鑑別分析
老化などにより気血が虚し、血が皮膚を栄養できないために血虚風燥となって発生する。
治法
養血潤燥・去風止痒
方剤例
養血潤膚飲
B風湿の皮膚掻痒
青壮年に多く、夏秋に甚だしい。皮膚の掻痒があり、掻破すると水疱・丘疹・びらん・浸出液が生じ、舌苔は白膩あるいは薄黄膩・脈は滑数を呈する。
鑑別分析
濃厚なもの・脂っこいもの・甘いもの・辛香の物・熱いものなどを過食して体内に湿邪が留滞しさらに風邪を外感して、風邪と湿邪が結したために発生する。
治法
散風除湿・止痒
方剤例
全虫方
C風盛の皮膚掻痒
春に多発し、慢性に経過する。遊走性の全身性掻痒があり、次第に皮膚が肥厚して苔癬化し、舌質は紅・舌苔は白黄・脈は弦細を呈する。
鑑別分析
肌膚奏理が固密でない為に風邪を感受し、風邪が長期間鬱滞して化熱したことにより発生する。
治法
掻風清熱・敗毒止痒
方剤例
烏蛇駆風湯
D風寒の皮膚掻痒
冬季に多発する。頭部・顔面・頸部・前胸・面手などの露出部に掻痒感があり、寒いと増悪し、温かいと汗がでて軽快し、舌質は淡・舌苔は白・脈は浮緩あるいは浮緊を呈する。
鑑別分析
陽気が不足して抵抗力が減弱し、風寒の邪を外感して発生する。
治法
駆風散寒
桂麻各半湯 桂皮(ケイヒ)麻黄(マオウ)芍薬(シャクヤク)生姜(ショウキョウ)大棗(タイソウ)甘草(カンゾウ)杏仁(キョウニン)
文献:{諸病源候論・風掻痒候}{諸病源候論・風行身体如虫行候}{諸病源候論風痒候}