月経不順 |
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月経不順とは、月経の周期・持続日数・経血量が正常範囲をはずれていることをさし、月経痛・経血の色や性状の異常なども含まれています。月経のの周期と持続および経血の量・色・性状には、相互に関連性があり、病態によって相対的に変化が現れますので、注意して観察する必要があります。月経は、臓腑・経絡の協調のもとに、血が衝脈・任脈を通じて胞宮に下ることによって正常に発来します。各臓腑は「心は血脈を主る・脾は統血す・脾胃は生き血の源・腎は精を蔵し血を生ず・肺は百脈を朝す」といった関係で、血の生成・運行に関与しているので、いずれかの臓腑・経絡に異常があれば、月経にも異常があらわれます。安易にホルモン療法などでその場をしのぐのではなく、病態を根本的に改善して自力で月経を正常に発来させるべきであり、中医学的治療が有効かつ安全です。ただし、先天的異常・器質的病変・悪性腫瘍などが関与している場合もあるので、経過によっては西洋医学的な診断を受ける必要もあります。 |
月経周期の異常 |
月経周期は成人で約30日(25〜38日)です。成長期・閉経期あるいは妊娠・出産・授乳の時期を除くと、通常あまり大きな変動はありません。通常の範囲を超えて周期が短いものを「経行先期(頻発月経)」周期がながいものを「経行後期(稀発月経)」周期が長短一定しないものを「経行先後無定期」とよんでいます。 |
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月経周期が短い |
経行先期は、周期が24日以内に短縮することです。たまに周期が短くなる程度であれば、この範疇には入りません。 |
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血熱(経行先期) |
火熱が衝任の血を下迫して月経を過早に発現させる病態です。 |
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@実熱 |
周期が短い・経血量が多い・持続日数が長い・血色が深紅で粘稠、いらいら・不眠・焦燥・暑がる・のぼせ・尿が濃いなど。 |
辛辣なもの・味の濃いもの・熱いもの・酒などの嗜好により腸胃の熱が内生したり、あるいは精神的ストレス・抑うつ・怒り・悩み・恋情・過度の思慮などで心火や肝火が生じ、邪熱が衝任にまでおよんで経血を下迫する病態です。治療を誤ったり長期にわたると、邪熱が陰液を消耗するために、陰虚に移行します。 |
症状 |
月経の周期が短くて経血量が多く、また持続日数も長く、経血色が深紅かつ粘稠であり、いらいら・怒りっぽい・不眠・焦燥・暑がる・のぼせ・尿が濃い・舌質が紅・脈が有力で速い速いなどをともないます |
治療法 |
血分の熱を冷まして下迫しないようにする「清熱涼血」を行います。 |
主な薬物 |
清熱涼血の赤芍・牡丹皮・丹参・芽根・地骨皮・生地黄・紫根・ウコンなど。あるいは清熱の黄連・オウゴン・山梔子と調経の当帰・白芍・センキュウなどを組み合わせます。 |
方剤例 |
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A陰虚 |
周期が短い・経血量が少ない・持続日数が短い・血色が紅い、頭のふらつき・めまい・熱感・手足のほてり・のぼせ・頬部の紅潮・腰や膝がだるく無力など。 |
邪熱の留滞・慢性病・熱病・頻回の出産などで陰血が消耗し、陽気が相対的に余って内熱が生じ、内熱が経血を下迫する病態です。
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症状 |
月経の周期が短くて経血量が少なく、また持続日数も短く、経血色が紅く、頭のふらつき・眩暈・耳なら・からだの熱感・手足のほてり・のぼせ・頬部の紅潮・ねあせ・腰や膝がだるく無力・舌質が深紅・舌苔が少苔〜無苔・脈が細く速いなどをともないます。 |
治療法 |
陰血を滋養氏内熱を冷ます「滋陰清熱」を行います。 |
主な薬物 |
滋陰の生地黄・熟地黄・玄参・女貞子・カンレン草・亀板・鼈甲・阿膠、清熱の牡丹皮・地骨皮など |
方剤例 |
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気虚(経行先期) |
周期が短い・経血量が多い・持続日数が短い・血色が淡くて稀薄、元気がない・息切れ・声に力がない・食欲不振など。 |
先天的虚弱・過労・慢性病・飲食の不摂生などで気が不足し、気の血を統摂する力が弱くなるために、経血の下注が過早になる病態です。 |
症状 |
月経周期が短くて経血量が多く、血色は湧くて稀薄であり、元気がない・気力がない・疲れやすい・ものを言うのがおっくう・息切れ・声に力がない・食欲不振・舌質が淡・脈が弱いなどをともないます。 |
治療法 |
元気をつけ機能を高めて血を固摂し、過早の下注を防止する「温陽補腎」を行います。 |
主な薬物 |
益気の黄耆・人参・白朮・炙甘草、調経の当帰・白芍・熟地黄・センキュウ、固渋の竜骨・牡蛎など。 |
方剤例 |
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月経周期が長い |
経行後期は、周期が29日以上に延長することで、甚だしければ2〜3か月あるいは半年に1回の月経という場合もあります。たまに周期が延長する程度のものはこの範疇に入りません。 |
血寒(経行後期) |
寒冷により血行が凝滞し、血が衝任を通じて胞宮に下行するのが遅延して、月経の周期が延長する病態です。 |
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@寒凝 |
周期が延長・経血色が暗紅で少量・凝血塊や強い月経痛・からだに触れると嫌がる・下腹部の冷え・顔色が青いなど。 |
月経や出産時に、寒冷の環境や薄着で冷える・冷たいものを過度に摂取する・雨に濡れる・水遊びをする・かぜをひくといった原因により、凍結の性質を持つ寒邪が衝任に侵入して血を凝滞させる病態です。基本に血虚があり、血の流通が十分でない場合に、寒邪を受けやすいといえます。治療を誤ったり長引かせると、寒邪が次第に容器を消耗するために虚寒へと移行します。 |
症状 |
月経の周期が延長し、経血色が暗紅で少量であり、凝血塊や強い月経痛があり、触れられるのを嫌がり、下腹部の冷え・顔色が青い・水にぬれたような舌苔・脈が沈んで力があるなどをともないます。 |
治療法 |
体内を温めて血行を促進し寒邪を除く「温経散寒」を行います。 |
主な薬物 |
桂枝・生姜・乾姜・附子・肉桂・センキュウ・当帰・延胡索・ガジュツなど。 |
方剤例 |
当帰四逆湯 |
当帰四逆加呉茱萸生姜湯 |
五積散 |
温経湯 |
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A虚寒 |
周期が延長・経血色が黒く量が少ない・月経終了後に下腹部の鈍痛・元気がない・寒がる・下腹部や手足の冷え・腰や膝がだるく無力など。 |
寒凝の長期滞留・先天的な虚弱・慢性病・出産による衰弱などで、陽気が衰弱し、血を推動する力が弱くなると同時に、温める能力が低下して生じた虚寒の冷えにより血の凝滞をひきおこしている病態です。寒冷にさらされていると、容易に寒凝が発生します。 |
症状 |
月経の周期が延長し、経血色黒くて少量で、月経終了時に下腹部の鈍痛が生じることがあり、あたためたり押さえると楽になり、元気がない・疲れやすい・寒がる・下腹部や手足の冷え・腰や膝がだるく無力・舌質が淡でぼってりしている。・水にぬれたような舌苔・脈が弱くて遅いなどをともないます。
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治療法 |
陽気を補い体内を温めて血行を促進し月経を調整する「温陽調経」を行います。....................................................................................... |
主な薬物 |
鹿茸・鹿角膠・杜仲・熟地黄・菟絲子・附子・肉桂・乾姜など。 |
方剤例 |
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普段からからだを冷やさないように注意し、温かい飲食物を摂取するように心がけるべきです。特に月経期には要人が必要です。 |
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血虚(経行後期) |
.周期が延長・経血色が淡く量が少ない・月経終了後に下腹部が痛む・顔色や皮膚につやがない・毛髪があれる・爪がもろい・目の疲れ・しびれ感など。 |
慢性病・出血・多産などによる血消耗、あるいは脾虚による血の産生不足が原因で、陰血が不足して衝任をなかなか満たすことができないために、月経の周期が延長する病態です。 |
症状 |
原型の周期が延長し、経血量が少なく淡色であり、月経終了後に下腹部がシクシク痛むことがあり、おさえると楽になり、顔色や皮膚につやがない・毛髪があれて抜けやすい・爪がもろい・目の疲れ・目の異物感・目のかすみ・四肢のしびれ感・動悸・舌質が淡・脈が細いなどがみられます。 |
治療法 |
陰血を滋潤し、元気を補うことにより生血・行血を強める「養血益気」を行います。 |
主な薬物 |
養血の当帰・白芍・熟地黄・阿膠、益気の人参・黄耆・白朮・炙甘草、行血のセンキュウ・桂枝など。 |
方剤例 |
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肝鬱気滞(経行後期) |
周期が延長・経血量が少ない・月経前または前半に下腹部の痛み・ゆうつ・いらいら・ヒステリックな反応・怒りっぽい・胸脇部や乳房がはるなど。 |
精神的ストレス・悩み・怒り・不安・緊張などで肝気が鬱結し、疏泄が十分にできなくなって気機が鬱滞し、気の推動が失調して血行が不十分になるために、血が衝任を通じて胞宮へ下行するのが遅延し、月経の周期が延長する病態です。 |
症状 |
月経の周期が延長し、経血量が少なく色は正常であり、月経前あるいは月経前半に下腹部の張った痛みを呈することがあり、触れられるのを嫌がり・ゆううつ・いらいら・ヒステリックな反応・怒りっぽい・胸脇部や乳房が張る・腹満・弦を張ったような緊張した脈などをともないます。 |
治療法 |
肝気鬱血を解消させて気分をのびやかにし、気機を通利させて血行を正常化する「疏肝解鬱・行気」を行います。 |
主な薬物 |
柴胡・ウコン・香附子・センレンシ・当帰・センキュウサンリョウ・ガジュツなど。 |
方剤例 |
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痰湿(経行後期) |
不妊・肥満・むくみ・腹満・からだがだるい・尿量が少ない・女性では月経周期の延長・経血量が少ない・無月経・帯下が多いなど |
あぶらっこいもの・あまいもの・美食などの嗜好により脾胃の気機が阻滞され、水湿が運化されないために痰湿がが生じ、痰湿が下注して女性の胞宮や男性の精室を阻滞し、不妊をひきおこす病態です。 |
症状 |
月経の周期が延長し、経血が淡色で粘稠であり、普段から帯下が多い。、肥満・むくみ・腹満・口がねばる・からだがだるい・尿量が少ない・白くべっとりとした舌苔などがみられます。 |
治療法 |
脾胃の運化を強めることにより健運して痰湿の産生を防止するとともに、痰湿を流動させたり除去する「健脾化痰・去湿」を行います。 |
主な薬物 |
蒼朮・白朮・茯苓・半夏・陳皮・天南星など。 |
方剤例 |
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湿熱 |
不妊・下腹部の不快感や痛み・頻尿・尿が濃い・微熱、女性では月経方・悪臭の帯下・陰部の掻痒、男性では早漏・遺精・陰嚢の湿りやかゆみなど。 |
不潔な性交あるいは月経時や産後の性交により、湿熱の邪が陰道を通じて侵入し、胞宮や精室を擾乱するために、不妊をきたす病態です。子宮内膜炎・前立腺炎・精嚢炎などに相当します。 |
症状 |
不妊とともに、下腹部の不快感や痛み・頻尿・尿が濃い・微熱・脈がはやいなどがみられます。女性では月経過多・悪臭のある帯下・陰部の掻痒など、男性では早漏・遺精・陰嚢の湿りやかゆみなどをともないます。 |
治療法 |
熱を冷まし湿邪を尿とともに除く「清熱利湿」を行います。 |
主な薬物 |
インチン・山梔子・オウゴン・黄柏・沢瀉・滑石・も苦痛・ヘンチク・クバク・車前子など。 |
方剤例 |
三妙丸 |
四妙丸 |
五淋散 |
インチン五苓散 |
竜胆瀉肝湯 |
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月経周期が一定しない |
経行先後無定期は、周期が短縮したり、延長したりして不規則なことです。月経周期がたまに乱れるものや、閉経期ににみられる先後無定期、正常とみなしてよく、この範疇に入りません。 |
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肝鬱気滞(経行先後無定期) |
緊張・悩み・怒りなど事あるごとに月経が乱れる・開始前や初期に痛む・いらいら・怒りっぽい・ヒステリックな反応・ゆうつ・溜息・乳房や腹の張りなど。 |
精神的ストレス・悩み・怒り・緊張・不安などで肝気が鬱結し、疏泄が失調して気血の運行が乱れるために、、衝任を通じて陰血が胞宮へ下行することも不規則になり、月経周期が一定しない病態です。 |
症状 |
緊張・悩み・不安・怒りなどの情緒変動あるいは旅行するというように、事あるごとに月経が乱れ、月経開始の前や初期に痛みをともなうことがあり、いらいら・怒りっぽい・ヒステリックな反応・ゆううつ・溜息・乳房や腹の張りなどがみられます。 |
治療法 |
肝気の疏泄を舒暢にし、気分をのびやかにし気血の流通を正常化して、月経を調整する「疏肝解鬱・調経」を行います。 |
主な薬物 |
柴胡・香附子・ウコン・センレンシ・厚朴・センキュウ・当帰など。 |
方剤例 |
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腎虚(経行先後無定期) |
周期が不定・経血量が淡く稀薄・月経終了時に下腹部や腰の痛み、顔面がどす黒い・頭のふらつき・耳鳴り・腰や膝がだるく無力など。 |
多産・性生活の不摂生・頻回の人工中絶・慢性病・先天的虚弱などが原因で腎精が不足し、精が血を生じないために肝血も不足し、肝気の疏泄が失調するために気血の流行が失調し、衝任を通じた陰血の胞宮への下行が不規則になり、月経の周期が不定になる病態です。 |
症状 |
月経周期が一定せず、経血色が淡くて稀薄であり、月経終了時に下腹部や腰の痛みが生じることがあり、顔色がどす黒い・目の周りにくまがある・頭のふらつき・めまい・耳鳴り・腰や膝がだるく無力などが見られます。 |
治療法 |
腎精を滋養し血の産生を促進して月経を調整する「補腎益精・調経」を行います。 |
主な薬物 |
熟地黄・生地黄・阿膠・枸杞子・亀板膠・鹿角膠・菟絲子・杜仲など。 |
方剤例 |
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