不妊
不妊とは、妊娠適齢期の女性が避妊をおこなわずに、結婚後三年以上経過しても妊娠しない、あるいは妊娠ののち数年を経ても再度妊娠しないことを指します。原因が女性側・男性側のいずれか、あるいは両方にある場合が考えられます。染色体異常・性器の畸形・高齢の男性などが原因の場合は、ここには含めません。
腎虚
先天的虚弱・性生活の不摂生・早婚・大病・慢性病などで腎の精気が不足した病態です。
@腎精不足
不妊・頭のふらつき・めまい・耳鳴り・腰や膝がだるく無力・性欲減退など、女性では経血量が少ない・月経周期が不定・無月経など。男性では遺精・精液が少ないなど。
腎精が不足しているために、女性では血が不足して衝任を通じて胞宮を養うことができず、伝声では精液を賛成できず、不妊をひきおこす病態です。
症状
不妊とともに頭のふらつき・めまい・耳鳴り・腰や膝がだるく無力・性欲の減退・脈が細いなどがみられます。女性では経血量が少ない・月経周期が一定しない・無月経など、男性では遺精・精液が少ないなどともないます。
治療法
腎精を補充する「補腎益精」を行います。
主な薬物
補腎益精の熟地黄・何首烏・阿膠・亀板膠・枸杞子・鹿角膠・菟絲子など。
方剤例
左帰飲 左帰飲 毓麟珠(いくりんしゅ)
毓麟珠党参 とうじん  白朮 びゃくじゅつ  茯苓 ぶくりょう炙甘草 しゃかんぞう  当帰 とうき  川キュウせんきゅう 白芍 びゃくしゃく 熟地黄 じゅくじおう 菟絲子 としし杜仲 とちゅう 鹿角霜 ろっかくそう 川椒 せんしょう
A腎陽虚
不妊・頭のふらつき・めまい・耳鳴りなど、元気がない・四肢の冷え・寒がる・夜間頻尿、女性では月経周期の延長・経血量が少ない・無月経など、男性ではインポテンツ・勃起不全・遺精など。
腎精とともに陽気が不足し、女性では胞宮を温めて精子を摂納したり胞胎を養育する能力がなく、男性では精子を培養する能力がなくなるために、不妊をひきおこす病態です。
症状
腎精不足の症状以外に、元気がない・四肢の冷え・寒がる・寒冷を嫌う・夜間頻尿・舌質が淡で胖大・脈が遅く弱いなどがみられます。女性では月経周期の延長・経血量が少なくうすい・無月経など、男性ではインポテンツ・勃起不全・遺精などをともないます。
治療法
腎精を補充するとともに体を温めて活力を高める「温陽補腎」を行います。
主な薬物
補腎益精の熟地黄・何首烏・阿膠・亀板膠、温陽の附子・肉桂・乾姜・鹿茸・インヨウカク・ニクジュヨウなど。
方剤例
八味地黄丸 右帰飲 右帰丸
B腎陰虚
不妊・頭のふらつき・眩暈・耳鳴り・熱感・のぼせ・手足のほてり・ねあせ、女性では月経周期の短縮・経血量が少ない・不正出血、男性ではせいよく静養亢進・持続性の勃起・射精できないなど。
腎精不足とともに陽気が相対的に余るために虚熱が生じ、女性では胞宮を養えず、男性では精液の産生が不足するだけでなく、火熱により擾乱されたり精血が灼消されるために、不妊をひきおこす病態です。
症状
腎精不足の症状以外に、からだの熱感・のぼせ・手足のほてり・寝汗・舌質が紅・舌苔が少ない・脈が細く速いなどがみられます。女性では月経周期の短縮・経血量が少ない・不正出血など、男性では性欲の亢進・持続性の勃起・射精できないなどをともないます。
治療法
腎精を補充して虚熱を冷ます「補腎益精・清虚熱」を行います。
主な薬物
補腎益精の熟地黄・何首烏・阿膠、清虚熱の亀板・鼈甲・生地黄・玄参・牡丹皮・知母など。
方剤例
六味丸 知柏地黄丸
気血不足
不妊・顔色や皮膚につやがない・頭のふらつき・目のかすみ・爪がもろい・元気がない・疲れやすい、女性では月経周期の延長・経血が淡く少ないなど。
先天的虚弱・慢性病・過労・出血などによる消耗、あるいは脾胃虚弱による気血の産生不足が原因で気血が虚衰し、女性では衝任を通じた胞宮を充養できず、男性では精液を化生する源が不足するために、不妊をひきおこす病態です。
症状
不妊とともに顔色につやがない・頭のふらつき・目のかすみ・爪がもろい・皮膚につやがない・元気がない・疲れやすい・舌質が淡・脈が細く弱いなどがみられます。女性では月経周期の延長・経血が淡く少ないなどをともないます。
治療法
元気をつけ機能を高め、血を補充し産生を強める「補気養血」を行います。
主な薬物
補気の黄耆・人参・白朮・炙甘草、養血の熟地黄・当帰・白芍・阿膠・何首烏・枸杞子など
方剤例
帰脾湯 十全大補湯 人参養栄湯 当帰芍薬散
肝気鬱結
不妊・ゆうつ・いらいら・ヒステリックな反応・怒りっぽい・胸脇部が張って苦しい・寝つきが悪い・溜息・女性の月経周期が不定・月経前の乳房の張り、男性の性欲はあるが勃起不十分・早漏など。
精神的ストレス・悩み・怒り・緊張などにより、肝気が鬱結して疏泄ができなくなり、女性では気血が鬱滞して胞宮が栄養を受けられず、男性では腎の生花・運輸が失調し、不妊をきたす病態です。
症状
不妊とともに、憂鬱・いらいら・ヒステリックな反応・怒りっぽい・胸脇部が張って苦しい・寝つきが悪い・溜息などがみられます。女性では月経周期が一定しない・月経前の乳房の張りなど、男性では、性欲はあるのに焦るだけで勃起が不十分・早漏などをともないます。
治療法
肝の疏泄を舒暢にし、精神面をのびやかにするとともに機能を円滑に行わせる「疏肝解鬱」を行います。
主な薬物
柴胡・ウコン・香附子・センレンシ・青皮・白芍・当帰など。
方剤例
四逆散 逍遥散 加味逍遙散 柴胡疏肝散
痰湿
不妊・肥満・むくみ・腹満・からだがだるい・尿量が少ない・女性では月経周期の延長・経血量が少ない・無月経・帯下が多いなど
あぶらっこいもの・あまいもの・美食などの嗜好により脾胃の気機が阻滞され、水湿が運化されないために痰湿がが生じ、痰湿が下注して女性の胞宮や男性の精室を阻滞し、不妊をひきおこす病態です。
症状
不妊とともに、肥満・むくみ・腹満・からだがだるい・尿量が少ない・白くべっとりとした舌苔などがみられます。女性では月経周期の延長・経血量が少ない・無月経・帯下が多いなどをともないます。
治療法
痰湿を除き産生をおさえる「燥湿化痰」を行います。
主な薬物
蒼朮・白朮・茯苓・半夏・陳皮・天南星など。
方剤例
平陳湯 カッコウ正気散
湿熱
不妊・下腹部の不快感や痛み・頻尿・尿が濃い・微熱、女性では月経方・悪臭の帯下・陰部の掻痒、男性では早漏・遺精・陰嚢の湿りやかゆみなど。
不潔な性交あるいは月経時や産後の性交により、湿熱の邪が陰道を通じて侵入し、胞宮や精室を擾乱するために、不妊をきたす病態です。子宮内膜炎・前立腺炎・精嚢炎などに相当します。
症状
不妊とともに、下腹部の不快感や痛み・頻尿・尿が濃い・微熱・脈がはやいなどがみられます。女性では月経過多・悪臭のある帯下・陰部の掻痒など、男性では早漏・遺精・陰嚢の湿りやかゆみなどをともないます
治療法
熱を冷まし湿邪を尿とともに除く「清熱利湿」を行います。
主な薬物
インチン・山梔子・オウゴン・黄柏・沢瀉・滑石・も苦痛・ヘンチク・クバク・車前子など。
方剤例
三妙丸 四妙丸 五淋散 インチン五苓散 竜胆瀉肝湯
血オ
不妊、女性では月経痛・経血中の凝血・月経周期の延長・無月経など、男性では睾丸や鼠径部の痛み・陰嚢の下墜や腫脹または静脈瘤など。
肝鬱気滞による血流の阻滞、陽虚・気虚による血液の推動無力、陰虚・血虚の血液濃縮にともなう渋滞、痰湿・湿熱による血行阻滞など、さまざまな原因で血行が阻滞されて血オが生じ、胞宮が栄養されず精液の流れが渋滞するために、不妊をきたす病態です。
症状
不妊とともに、女性では月経痛・経血中の凝血・月経周期の延長・無月経などが、男性では睾丸や鼠径部の痛み・陰嚢の下墜感や腫脹あるいは静脈瘤などが見られます。
治療法
鬱血をのぞき血行を促進する「活血化オ」を行います。
主な薬物
桃仁・紅花・蘇木・山稜・ガジュツ・当帰・センキュウ・大黄など。
方剤例
通竅活血湯 血府逐オ湯
桂枝茯苓丸 通導散
原因となる他の病変に対する治療法と併用すべきです。