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動悸 |
動悸とは、心臓の拍動を自覚することであり、多くは不安感をともなっています。動悸を自覚する場所は、心臓部が最も多いのですが、心窩部・臍下などのこともあります。一般に「心悸」と称され、「驚悸」と「正中」に区別されます。驚悸とは驚き・恐れ・不安・情緒変動・疲労などがきっかけで生じる動悸で、経過がそれほど長くなく、一時的なものです。正中とは明らかな外因がなくて持続する動悸で、労作的に増強するものです。驚悸は軽症で正中は重症であり、驚悸が反復すると次第に正中へ移行します。心神不安の一症状ですが、原因はさまざまです。一般に正気の不足あるいは臓腑の虚損などの虚証が主体であり、治療は補法が基本になります。緊張・不安・恐怖・運動などによって一時的に起きる動悸は、ここには含めません。 |
心陰血不足 |
動悸・焦燥・不眠・もの忘れ・驚きやすい・元気がない・疲れやすい・食欲不振、熱感・手足のほてり・寝汗・口の乾燥など。 |
過度の思慮・悩み・恐れ・恋情などによる暗耗、出血・慢性病・老化・熱病などによる消耗、脾虚による陰血産生不足などにより、心の陰血が不足して心神を滋養できずに、心神が不安定になり動悸が生じる病態です。気の損耗や産生不足も不可避的に存在するために、多くは気虚をともないます。心血虚の段階と、さらに陰血不足の程度が進んで内熱をともなう心陰虚の段階があります。 |
症状 |
心血虚では、動悸とともに焦燥・不眠・物忘れ・驚きやすい・舌質が淡・脈が細いなどを呈し、元気がない・疲れやすい・食欲不振などの気虚の症状などもみられます。心陰虚では、心血虚以外の症状以外に、からだの熱感・手足のほてり・ねあせ・口の乾燥などがあり、舌質が紅で乾燥・舌苔が少苔〜無苔・脈が細く速いなどをともないます。 |
治療法 |
心の陰血を滋養し熱を冷ますことにより心神を安定させる「滋養陰血・安神」を行います。 |
主な薬物 |
養心血の竜眼肉・酸棗仁・熟地黄・当帰・柏子仁、養心陰の生地黄・阿膠・亀板・百合・麦門冬、安神の遠志・茯苓・五味子・竜骨・牡蛎、益気健脾の人参・黄耆・白朮など。 |
方剤例 |
養心血 |
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養心陰 |
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心陽気不足 |
動悸・運動にともない動悸や狭心痛が生じ、元気がない・疲れやすい・汗が出る、寒がる・四肢の冷え・横になりたい・うとうとするなど |
慢性病・先天的虚弱・老化阿などによって心の陽気が不足し、血を推動する力が弱いために心血が心神を養うことができなくなり、心神不安の動悸をひきおこす病態であり、心気の鼓動にも変化がみられるのが特徴です。陽気の不足にともなって陰血の運行や産生も低下するために、陰血不足をともなおことが多くみられます。心気虚の段階と、陽気の温める力が不足して虚寒を呈する心陽虚の段階があります。 |
症状 |
心気虚では、動悸とともに脈の結代がみられることが多く、運動にともなって動悸や狭心痛が現れ、元気がない・疲れやすい・汗がでるなどをともないます。心陽虚では、心気虚の症状以外に、寒がる・四肢の冷え・横になっていたい・うとうとするなど虚寒の症状がみられます。 |
治療法 |
心の陽気を補い機能を高め温めることにより、心血を十分にめぐらせて心神を安定させる「補気温陽・安神」を行います。 |
主な薬物 |
益気の人参・黄耆・炙甘草、温陽の附子・桂枝・肉桂・乾姜・益智仁、安神の五味子・遠志・柏子仁・茯苓・竜骨・牡蛎、養陰血の熟地黄・当帰・阿膠など。 |
方剤例 |
心気虚 |
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心陽虚 |
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水気凌心 |
発作性の動悸が頻繁に生じ、疲労・冷えで誘発、疲れやすい・元気がない・食欲不振・うすい痰・めまい・むくみ・尿量が少ない・寒がる・四肢が冷えるなど。 |
先天的虚弱・老化・慢性病・過労などで、脾腎の陽気が不足し、水液を運輸したり温めて気化することができないために水飲が貯留し、水飲が三焦を通じて心を犯すために動悸が生じる病態です。 |
症状 |
発作性の動悸が頻繁に生じ、疲労・冷えなどで誘発され、疲れやすい・元気がない・食欲不振・うすい痰・めまい・むくみ・尿量が少ない・寒がる・四肢の冷え・舌質が淡・水様の舌苔・脈が沈んで弱いなどの水飲停留と虚寒の症状をともないます。 |
治療法 |
脾腎の陽気を補ってからだを温め元気を増し、水液代謝を強めて水飲の産生を防止し、水飲を利尿して除去する「温腎補陽・健脾利水」を行います。 |
主な薬物 |
温腎補陽の附子・乾姜・肉桂・桂枝、健脾利水の人参・白朮・茯苓・炙甘草・大腹皮など。 |
方剤例 |
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痰濁擾心 |
動悸・胸苦しい・痰が多い・腹満・食欲不振・吐き気嘔吐など。 |
精神的ストレス・飲食の不摂生・飲酒癖・感染症などが原因で、脾胃の運化が阻滞され、内生した水湿が貯留して粘稠な痰に変化し、さらに鬱して化熱することにより痰火を生じ、痰が気・火ともに上昇して心を擾乱するために動悸が生じる病態です。 |
症状 |
ときに動悸が生じ、胸苦しい・痰が多い・腹満・食欲不振・吐き気・嘔吐・べっとりした舌苔などをともないます。痰火に変化した場合には、焦燥・黄色い舌苔・脈が速いなどがみられます。 |
治療法 |
機能を円滑に行わせ痰湿を流動させて解消し、痰火にはさらに火熱を冷ます「理気化痰・瀉火」を行います。 |
主な薬物 |
理気化痰の半夏・陳皮・天南星・厚朴・茯苓・竹茹・遠志、瀉火の黄連・オウゴン・山梔子、安神の竜骨・牡蛎など。 |
方剤例 |
痰湿 |
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痰火 |
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血脈オ阻 |
動悸・心臓部の刺すような痛み、口唇や舌が青紫など。 |
陽気の不足による推動無力・陰血の不足による血液の粘稠度増大・水気や痰濁による阻滞といったさまざまな原因により、血脈が阻滞・渋滞されて血オが生じ、血オにより心神が擾乱され動悸が生じる病態です。 |
症状 |
動悸とともに心臓部の刺すような疼痛があり、口唇や舌の青紫・舌のオ点などをともなうほか、原因になる他の病態の症状もみられます。 |
治療法 |
鬱血を除き血行を促進し、血中の雑物を除去する「活血化オ」を行います。 |
主な薬物 |
桃仁・紅花・当帰・センキュウ・丹参・赤芍など。 |
方剤例 |
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原因になる他の病態に対する治療法と併用すべきです。 |
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